新作落語「えんじょうこわい」
町内の若い衆が集まって、
好きな食べ物をああだこうだと言っているうち、
人には好き嫌いがあるという話になる。
大方のモンは虫が好かないというが、
人は胞衣(えな)を埋めた土の上を
初めて通った生き物を嫌いになるという言い伝えがある。
蛙なら蛙が嫌いになり、
蛇なら蛇。
皆で嫌いな虫を言い合い、
黙っている辰さんに
「おめえは、どんなもんが恐い?」
と聞くと
「ない」
と言う。
蛇はどうだと聞くと、
あんなものは、頭痛のときの鉢巻にする
と、うそぶく。
トカゲは三杯酢にして食ってしまうし、
蟻はゴマ塩代わりに飯にかける。
忌ま忌ましいので、
なにか一つくらいないのかと食い下がると
「へへ、実は、それはあるよ。
それを見ると、体中総毛立って震えてくる」
「へえ、何だい?」
「一度しか言わないよ。……えんじょう」
「えんじょう?なんでぇそれは」
「へへ、実はおいら、ブログをやってるんだが、ときどき見も知らねえ輩から誹謗・中傷のコメントを受けることがある。これが怖くてね、きっと俺のえなの上には悪口が通ったに違げえねえ」
と、いって辰さん、急にブルブル震えだす。
「こわいッ、こわいよォッ」
泣き出して、とうとう寝込んでしまった。
そこで一同、
あいつは普段から、のみ屋の割り前は払わないし、
けんかは強いからかなわない。
いいことを聞いたから、一度ひどい目に会わせてやろう
と、計略を練る。
「話をするだけであんなに震えるんだから、
実際にえんじょうしたらひっくり返って、身体中ブチになって死んじまうかもしれねえ」
というわけで、仲間を集め、インターネットとやらを勉強し、はてなブックマークなんてのも登録し、皆で一斉に誹謗・中傷のコメントやブコメを書き込む。
すると面白いもんで、集めた仲間以外にも面白がったやつが次々に批判コメントを書き込み、あっと言う間に辰さんのブログは炎上してしまった。
「どうだ辰さん、見てみたか?」
すると辰さん、スマホを見ながらにやにやと笑ってやがる。いよいよ気でもふれたかと画面を見ると、何やら数字が並んでる。
「辰さんそれ、何を見てるんだ」
するとコンピュータに詳しい股八が叫んだ。
「あ、こいつ、グーグルアドセンスに登録してらぁ!」
「なんでぇ、そのなんとか扇子ってのは?」
聞けば早い話が、アクセスが集まれば集まるほど、辰さんの懐に小判が舞い込むって寸法らしい。
辰さんはこわい、こわいよーなんて言いながら、広告の表示位置を微調整したりしてやがる。
連中は騙されたと思ってカンカン。
「おう、怖いと言ってたえんじょうで喜びやがって!」
「いい加減にしろ、お前は何が怖いんだ、言え!」
首を絞められ、辰さんは咳込んだ。
「分かった、言うよ」
「さあ言え。なにが怖い?」
「今は、お茶と、Amazonプライム会員の無料体験申込みが怖い」
× × ×
※後記
言うまでもなく、古典落語「まんじゅうこわい」のオマージュです。
大枠の流れは別サイトを参考にさせてもらいました。
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