※「猿蟹合戦」episode①あらすじ…
ある日、カニがおにぎりを持って歩いていると、ずる賢いサルが道で拾った柿の種と交換しようと言ってきた。カニはそれを快諾。
やがて木が育ち、柿の実がなると、サルがやって来て柿が取れないカニの代わりに自分が取ってあげようと木に登り、そのまま自分だけが食べた。カニがそれに文句を言うと、サルは青くて硬い柿の実をカニに投げつけ、カニはそのショックで子供を産むと死んでしまった。
月日は流れ――
成長した子供のカニは、親の敵を討とうと決意。栗、臼、蜂、そして牛のクソとともに、サルの家に隠れ、敵討ちを決行した。
帰ってきたサルが囲炉裏に近づくと、栗が体当たりをして大やけど。急いで水で冷やそうと水桶に近づくと、蜂がブスリと刺す。驚いて家から逃げようとしたサルは、牛のクソに滑り転倒。そこへ、屋根から臼が落ちてきて、サルは潰れて死ぬのだった。
そして、
さらに月日は流れ――
「サルがやられたらしいな…」
「ククク…やつは霊長類の中でも最弱」
「ようし、我々も、ヤツらのもとへ行こうではないか」
「おにぎりをもらいに行くのだな」
「じょうだんを言え。そうだな…カニ味噌食べ放題、というのはどうだ?」
「なるほど…そりゃあいいぜ」
そうして、チンパンジーとゴリラが、山を下りたのでした――。
「猿蟹合戦2-REVENGE-」
町では、毎年恒例の餅つき大会が行われていました。
すっかり成長したカニは、戦友と呼ぶべき臼と一緒に、餅つきの掛け合いを楽しんでいます。
するとそこへ、見覚えのある蜂が、あわてて飛んできました。
「たいへんだ!たいへんだ!」
「蜂さん、久しぶり。どうしたの?」
蜂が聞きつけた情報によると、以前倒したサルの仲間が復讐に立ち上がり、こちらへ向かっているとのこと。しかもその相手は、サルの数倍も手ごわいというではありませんか。
「カニさん、どうするでごわすか?」
臼が不安げに尋ねると、カニは、
「大丈夫。僕たちが力を合わせれば、どんな相手でも勝てる!」
と、自信満々に告げました。
「もう一度…仲間を集めるんだ!!」
こうしてカニたちは、かつての戦場であるサルの家で、ふたたび待ち伏せることにしました。
予想通り、町へやって来たチンパンジーとゴリラは、まっさきにサルの家を訪れました。チンパンジーが暖を取ろうと囲炉裏に近づくと、隠れていた栗がパーン!と弾けます。見事にチンパンジーに命中したのですが、チンパンジーは背中がかるく焼けた程度で、まったく動じません。
栗の渾身の自爆は、無意味なものとなってしまいました。
「ふん、まさかサルの時とおなじ作戦でくるとはな。どうせ、水桶に蜂が隠れているのだろう」
チンパンジーはそう言って、水桶を慎重に覗き込みます。
「ほう?もう一匹栗がいたとはな。だが、水の中にいる栗など、弾けることもできないゴミ屑同然」
チンパンジーがにやりを笑うと、ゴリラが叫びました。
「頭を冷やせチンパンジー!そいつは栗じゃない、ウニだ!!」
「なんだと!!?」
ウニは水がめから勢いよく飛び出し、チンパンジーを襲いました。ですが――ああ、なんということでしょう。チンパンジーは軽い身のこなしでよけ、かすり傷を負った程度。ウニはそのまま、囲炉裏へと飛び込んでしまいました。
「ぐへへ、二匹目退治完了!」
「ちっくしょおおおぉぉーー!!」
同じ海の仲間として我慢できなかったカニが、作戦を忘れて飛び出しました。
「おっと!カニ味噌いただき!!」
チンパンジーが素早い動きでカニに襲いかかります。と、攻撃を繰り出す一瞬のスキを突き、蜂が飛びかかりチンパンジーの首をブスリと刺しました。
「くそったれめぇぇーっ!!」
「ははは、手こずっているようだな!」
顔を真っ赤にしたチンパンジーを見て、ゴリラが愉快そうに笑いました。ゴリラはチンパンジーの何倍もの実力があるようです。
「そんなチクリと刺す程度で、俺がやられると思ったか!」
チンパンジーは蜂とカニを順に殴りつけました。力が強く、二匹とももはや起き上がることができません。
絶体絶命と思われた、その時です。
「な、なんだ…!?くせえ!くせえぞ!?」
見ると、家屋の入り口で、牛のクソがうごめいていました。サルとの闘いからさらに年月を経た牛のクソは、当時とは比較にならないほど腐臭を放っていました。
牛のクソは、チンパンジーの鼻にとびかかりました。
「く、くっせぇ!!」
その隙に、蜂が渾身の力を振り絞り、自らの命と引き換えに、チンパンジーをふたたびブスリと刺しました。二度刺されたチンパンジーは、アナフィラキシーショックの症状が出て、息絶えました。
ゴリラは高笑いをし、余裕たっぷりに言いました。
「チンパンジーを倒すとは、よくぞ頑張ったと褒めてやろう。だが、この俺様はチンパンジーの50倍もの力……く、くっせぇ!!!」
ゴリラが喋っているスキに、牛のクソはゴリラの鼻に飛びかかりました。
牛のクソは最強でした。
たまらずゴリラが家屋を飛び出すと、臼が屋根から飛び降り、潰しました。
「やったでごわす!」
「くそったれ……まさか…この俺が…サルと同じやられ方を、するとは…」
「しぶといヤツでごわす。これで、とどめでごわす!」
と飛びかかろうとした臼を、
「待ってくれ!」
と、カニが止めました。
「か、カニさん。どういうことでごわすか…?」
「この件は…水に流そうと思う」
「え、水に流していいんでごわすか!?」
「ああ」
それを聞き、臼は何を勘違いしたのか、牛のクソを便所に流してしまいました。
臼の肩を借りよたよたと歩くカニは、ゴリラを広場へと案内しました。
そこには、一本のおおきな樹木が立ち、いくつもの実がなっています。
「これは……?」
そうたずねるゴリラに、カニはしずかに語り始めました。
「柿の木さ。君の仲間のサルがくれた、柿の種を植えたのが育ったんだ。…あれから毎年のように、いくつもの柿の実がなる。……僕の母さんは、間違っていたのかもしれない」
「どういうことでごわすか…?」
臼は意味が分からず、たずねました。
「たしかにサルは、木に登って自分だけ柿の実を食べた。でも、それを責める必要なんてなかった。サルが満腹になるのを待って、その後でもう一度、『こちらにもちょうだい』と言えばよかったんだ。
それでもらえなかったとしても、他の方法を考えればよかったんだ。なにしろ、毎年たくさんの実がなるんだから。イジワルを差し引いたとしても、母さんはサルに、感謝するべきだったんだと思う」
「カニさん……」
臼は感動して涙を流しました。
「なあゴリラさん、あの柿の実を、僕たちのために、取って来てくれないか?」
「な、なぜ俺様が……」
「血を血で洗う惨劇は、なにも生み出さない。…復讐の連鎖は、これで終わりにしよう」
「俺を…生かしておくというのか?」
「もちろんだ。僕は、柿が食べたいだけなんだ」
ゴリラは俯き、泣いているようも見えましたが、やがて柿の木を見上げ、器用にするすると登っていきました。
「さあ、そっちのよく熟れた柿を取ってくれ。持てる分だけで構わない」
そう叫ぶカニを、ゴリラが見下ろしました。
「カニさん……あんたは本当に心がきれいで、本当に優しいな……、
ヘドが出るほどに!!」
「!?」
ゴリラはまだ固く青い柿を手に取り、カニに投げつけました。柿はカニに直撃し、カニはめまいを起こし倒れてしまいます。続けてもう一つ、今度は臼に向け青い柿を投げつけ、臼のどてっ腹に穴が開いてしまいました。
「ふはは、ふはははは!!…我ら霊長類をコケにした罰だ!ふははは!!」
そう高笑いし、ゴリラは木の上で勝ち誇ったように、胸をドンドンと叩きました。
臼は苦しそうに、とぎれとぎれに呼吸をしています。カニの意識がみるみると遠のいていきます。
「ちくしょう…臼さん、申し訳ない。…母さん、ゴメン…」
ついにカニは、意識を失ってしまいました。
広場には、ゴリラの胸を叩く音だけが響いています。
それはまるで、霊長類の勝利を、地球全体に告げるかのようでした――。
一方その頃。
海中深くに潜るカブトガニが、永い眠りから覚めようとしていました――。
<Episode3へ続く>
× × ×
※後記
特に言うことはないですが、もし好評でしたら「episode3」を書きます。
※その他ネタ記事あります。