新作落語「はあちゅうこわい」
町内の若い衆が集まって、
好きな食べ物をああだこうだと言っているうち、
人には好き嫌いがあるという話になった。
大方のモンは虫が好かないというが、
人は胞衣(えな)を埋めた土の上を
初めて通った生き物を嫌いになるという言い伝えがある。
蛙なら蛙が嫌いになり、
蛇なら蛇。
皆で嫌いな虫を言い合い、
黙っている辰さんに
「おめえは、どんなもんが恐い?」
と聞くと
「ない」
と言う。
蛇はどうだと聞くと、
あんなものは、頭痛のときの鉢巻にする
と、うそぶく。
トカゲは三杯酢にして食ってしまうし、
蟻はゴマ塩代わりに飯にかける。
忌ま忌ましいので、
なにか一つくらいないのかと食い下がると
「へへ、実は、それはあるよ。
それを見ると、体中総毛立って震えてくる」
「へえ、何だい?」
「一度しか言わないよ。……はあちゅう」
「はあちゅう?なんでぇそれは」
「おいらと一緒で、ブログをやってる女なんだが…妙にキラキラしてるし、下ネタなんかも平気で返してくるし、おっかなくてしょうがねえ。きっと俺のえなの上には、はあちゅうが通ったに違げえねぇ」
と、いって辰さん、急にブルブル震えだす。
「こわいッ、こわいよォッ」
泣き出して、とうとう寝込んでしまった。
そこで一同、
あいつは普段から、のみ屋の割り前は払わないし、
けんかは強いからかなわない。
いいことを聞いたから、一度ひどい目に会わせてやろう
と、計略を練る。
「話をするだけで震えるんだから、ここは一つ、対談でもさせりゃ、身体中ブチになって死んじまうかもしれねえ」
てなわけで、ネット媒体に対談の企画を持ちかけ、LIGだオモコロだなんて言いながら、結局、ダイアモンドオンラインで全3回にわたり、対談記事を公開することに。
対談当日、背広姿の辰さんはガチガチに緊張しながら、両手でろくろを回してやがる。
あくる日、皆で辰さんの様子を見に行くと、なにやら書斎でにやにやと書き物をしている。
「辰さん、いったい何を書いてんだい?」
「これかい?これはおいら初の、単独著書の準備でさぁ」
「た、単著!?なんでお前さんが書籍なんか出せるんでぇ!」
「あ、そういうことか!」
とインターネット業界に詳しい股八が叫んだ。
「インフルエンサーと呼ばれるはあちゅうとサシで絡んだことで、辰さんにもファンがつき、影響力を持つようになったんだ」
「インフルエンザ!?インフルエンザが感染したってことか!?」
「違げぇねえ。言ってみりゃ、はあちゅうってのは流行り病のことかもしれねぇ!」
そう言ってる間、辰さんはこわい、こわいよーなんて言いながら、田端信太郎に帯コメントの執筆を依頼してやがる。
連中は騙されたと思ってカンカン。
「おう、怖いと言ってたはあちゅうで喜びやがって!」
「いい加減にしろ、お前は何が怖いんだ、言え!」
首を絞められ、辰さんは咳込んだ。
「分かった、言うよ」
「さあ言え。なにが怖い?」
「今は、王様のブランチが怖い」
× × ×
※後記
言うまでもなく、古典落語「まんじゅうこわい」のオマージュです。
大枠の流れは別サイトを参考にさせてもらいました。
※前回の「新作落語」↓
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